東京高等裁判所 平成12年(う)392号 判決
被告人 小口武
〔抄 録〕
論旨は、要するに、原判決は、速度測定記録書三通(うち、二通は謄本、検察官請求書証番号甲2、8、11、以下、これらをまとめて「速度測定記録書」という。)について、刑訴法三二一条三項書面(以下「三項書面」という。)に該当するとして、いずれも証拠として採用しているが、右各書面はいずれも三項書面に該当しないから、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある、というのである。
そこで検討すると、速度測定記録書は、いずれも、右の表題のもとに、その表面が、<1>違反車両、違反日時、違反場所、違反速度の記載部分、<2>道路を走行する車両前面の状態が運転者の顔等を含めて撮影された写真が貼付されている測定記録写真部分(写真の上部に白抜き文字で、違反日時、測定速度、規制速度、違反場所、当該道路の種別、上下線の別等の表示がある。)、<3>「上記写真を確認した」旨の違反者(被告人等)の供述とその署名押印部分、<4>写真上部の白抜き文字の意味を説明した部分(<2>の括弧書き部分参照)、その裏面が、<5>ハードコピー写真処理状況の記載部分(中央装置作動日時、担当者、中央装置から抽出してハードコピーした日時、担当者の記載がある。)、<6>速度測定及び写真撮影方法等の記載部分(本件現場における速度測定及び写真撮影の方法等についての一般的説明)、<7>作成年月日及び作成者の氏名押印部分から成っている。これらのうち、最も重要で中核をなすのは、<2>の測定記録写真部分であり、<1>は、その内容を転記したものにすぎず、<4>は右写真中の文字データの説明であり、<2>の白抜き文字自体からもその意味は把握できるので、不可欠なものではなく、<5>及び<6>は、<2>のハードコピー写真を作成した日時、方法等を記載したものということができる。
そこで、まず、<2>の測定記録写真部分(厳密にいえば貼付された写真自体であるが、以下これを「写真部分」という。)の証拠としての性質等について検討する。
田辺正之、井上浩及び堀内進の各原審証言、司法警察員作成の実況見分調書(甲4)並びに検察官作成の報告書(甲17)によれば、本件速度取締装置(三菱電機株式会社のRSー二〇〇〇型高速走行抑止システム、以下「本件装置」という。)の概要は、原判示の道路に設置された端末装置により、通過車両の速度を測定するとともに、一定の速度を超過した速度違反車両についてはその前面を撮影して、速度違反車両等の画像及び測定速度等のデータを獲得し、このデータがデジタル化されてそのまま山梨県警察本部交通部交通機動隊に設置された中央装置(制御用コンピュータ、光ディスク装置等から成るもの)の制御用コンピュータに送信されて光ディスク(書換え不能型)に記録・保存されるというものである。そうすると、右のデジタル化されたデータは、科学的、機械的装置により得られた、まさに犯行現場の情報そのものであり、これをプリンタ等により出力した結果得られたハードコピーである<2>の写真部分、すなわち、違反車両や運転者の顔等が写された写真画像そのものはもちろん、測定速度等のデータが出力されている白抜き文字の部分も、全体として非供述証拠というべきである。したがって、<2>の写真部分は、いわゆる犯行現場を撮影した現場写真と同様に、伝聞法則の適用はなく、そのハードコピーの作成者に作成過程等を証言させなくても、その証拠能力は認められるのである。そして、前記の原審証言、実況見分調書、報告書のほか、原判決が掲げるその余の証拠と、速度測定記録書三通のうちの各<2>の写真部分を総合するだけで、原判示速度違反の事実は優に認定できるのであって、速度測定記録書のその余の部分まで証拠とする必要はなかったということができる。また、その余の部分の前記のような内容からして、これが原審裁判所の目に触れたからといって、事実認定に影響を及ぼしているとは考えられない。
ところで、原審は、速度測定記録書を全体として三項書面として採用しているので、その適否について検討すると、<2>の写真部分は、それ自体が非供述証拠として証拠能力を有すると解されることは、前述したとおりであるが、速度測定記録書は、<2>の写真をそれに貼付し、このハードコピーを作成した経過等を記載した報告文書となっているものである。そして、右ハードコピーの基となるデータは、光ディスクにデジタル化されて記録されているものであり、右データそのものは可視的ではないため、中央装置のコンピュータを操作し、ディスプレーで確認しつつ、これをハードコピー写真として証拠化する必要があるのである。右光ディスクのデータをハードコピー化する行為は、五感の作用によりつつ、中央装置をその用法とされている手順に従って操作して、光ディスクに保存されているデータを覚知、認識する手段としての性質を有しているということもできる。そうすると、速度測定記録書中の、<2>の写真部分は、検証の対象となる光ディスク内のデータを写真として出力したものであり、<1>、<4>ないし<6>は、<2>の写真の説明、写真として出力した過程、方法、右のデータが光ディスクに保存されるまでの原理、方法等を説明したものであるから、速度測定記録書中の<1><2><4>ないし<7>の部分は、全体として光ディスクに保存された本件速度違反のデータについての見分結果を記載した書面として、三項書面に該当すると解することもできる。もっとも、<3>の部分は、違反者(被告人等)の供述書として独立の書面と認められるから、原審としては、三項書面として採用するに当たり、決定中に<3>の部分を除外する趣旨を明示するのが相当であったというべきであるが、原審も<3>の部分まで証拠として採用した趣旨とは認められないから、この点をもっていまだ訴訟手続の法令違反があるとまではいえない。
なお、念のため付言すると、速度測定記録書が<3>の部分を除き、全体として三項書面として証拠能力を有するとしても、その作成過程等からして、その記載内容の証明力には限界があるのであって、本件道路についての速度規制とその規制標識の設置状況、本件端末装置の設置場所やその状況、本件装置の速度測定等の方法やその原理については、別個の証拠が必要というべきである(本件においてそのような別個の証拠に欠けるところはない。もっとも、速度測定記録につき当事者が全体として証拠とすることに同意している場合は別論である。)。
以上のとおりであって、原審の訴訟手続に所論のような法令違反があるとはいえない。論旨は理由がない。
(安廣文夫 松尾昭一 金谷暁)